One Raffles Place Tower 2 ワンラッフルズプレイスタワー2

石野 靖博(社長) / 石田 和也(設計部 インテリアデザイン統括) / 釣 佳彦(設計部)

TANGE DNA+を具現する建物。

始まりは、
ワンラッフルズプレイスタワー1から。

シンガポールのファイナンシャルセンターの記念碑的建築と言われるのが「ワンラッフルズプレイスタワー1」。完成は1986年。丹下健三が設計した、当時のアジアで一番高い60階建てのビルだ。社長の石野は当時を振り返ってこう言う。「私どもが常に考えるのは、建物を設計する際に周辺環境のことを考え、活性化させる手法をプロジェクトに取り込んで、街全体を豊かに、そして人々が生き生きと過ごせる空間を生み出すこと。このプロジェクトにもその考えは色濃く反映されています」 具体的にはどういうことか、石野は話を続けた。「いまでこそこの一帯はシンガポールのビジネスの中心を担う場所に発展していますが、1980年代の初めは開発も進んでいませんでした。シンガポール全体の、都市計画はまだこれからという段階でした。だからこそ丹下健三は、建物が人を呼び、人の賑わいが都市になっていく、そんな建物をめざしたのです。シンガポールリバーと歴史的にも重要なラッフルズプレイスをつなぎ、人の流れを生み出すことを計画に取り入れました。1階部分に大きなパブリックスペースを設けて、人が通り抜けできる空間を提案したのです。クライアントにとっては思ってもみなかった提案だったと思いますが、結果としては人の賑わいを生み出すことにつながり、街のランドマーク的な建物になりました」

意志を受け継ぎ、今を設計する。

そして21世紀に入ると、「ワンラッフルズプレイスタワー1」の隣の敷地に「ワンラッフルズプレイスタワー2」の設計依頼が寄せられる。設計を担当したのは丹下憲孝。親子2代にわたる作品が建ち並ぶことになる。設計部の釣は言う。「丹下憲孝が考えたのは、すでに街のランドマークとなっている、高さ280mの『タワー1』とのバランスを図りながらも現代性を取り入れた設計にすることでした。しかしその実現には、さまざまな検討が重ねられました」 なかでもスタッフを一番悩ませたのが、バランスの問題だった。社長の石野は言う。「『タワー2』の敷地は『タワー1』より狭かったので、その面積だと都市計画で定められた容積率だけでは、『タワー1』の半分以下の高さにしかできませんでした。丹下都市建築設計が大切にするアーバンデザインの観点からいえば、建物のデザインにバランスは重要。敷地面積が小さくても、何らかの方策を考えてバランスのとれた建物にする道を探さなければなりません。どんなに困難な状況でも課題を乗り越える最善の道を探すのが設計というものなのです」

バランスを保つための数々の試み。

設計担当のメンバーは、シンガポールの都市計画局と協議を重ねた。シンガポールのこれからについて、アーバンデザインをコントロールする都市計画局は、いい提案には協力を惜しまないところがあったと石野は言う。「『ワンラッフルズプレイスタワー1』のときもそうでしたが、シンガポールの都市計画局は前向きな提案には実に協力的なのです。ですからアーバンデザインという側面からもこのふたつの建物のバランスはとても重要だと相談をもちかけたのです。協議を重ねるなかで、容積を増やす方法が見えてきました。そのひとつが、『ワンラッフルズプレイスタワー1』と敷地を一緒にすることで、『タワー1』では使い切れていない面積を『タワー2』で使用しようというもの。さらにシンガポールには『ライティングインセンティブ』や『アートインセンティブ』という、建築容積を増やす手法があります。照明を効果的に使った建物や公共性に優れたアートを積極的に採用する建物には、ボーナスとして容積を増やしてもいいという制度です。そんな建築容積を増やせる手法を積極的に取り入れて、なんとかバランスが保てる高さを確保することができたのです」

デザインには現代性を。

「ワンラッフルズプレイスタワー2」は、「タワー1」と比べて、決して大きな建物とは言えませんが、その分、室内からシンガポールリバーへの広がりを感じる設計が施されていると石野は言う。「三角形のモチーフを用いながら、ガラスを多用することで透明感と、空を映し出すことで爽快感を演出したかったのです。つまりシャープであるけれど、人を圧迫するのではなく、和らいで心も開放される空間をめざしたのです」 丹下健三の意志を受け継いだ上で現代性のあるデザインするという姿勢は、内部のインテリア設計にも現れている。インテリアデザイン統括の石田は言う。「いずれ『タワー1』とつながることになるのだから、まるで違うデザインになってはいけないし、かといって同じでは時代性も鮮度もありません。丹下健三の考えていたストーリーを読み取って、守るべきことと挑んでみたいことを考えながらデザインしました。結果として基本のコンセプトは『ZEN』の空間思想をベースに、素材や色合いや光など、『タワー1』とのバランスを考えて慎重に選んでいきました。あと、千住博さんに『ウォーターフォール』を依頼するなど、アートは積極的に取り入れました。その『ウォーターフォール』ですが、ビルに入ると水が見えて、水の音も聞こえます。暑い屋外から入ってきた人には爽快感を感じてもらえると思うのです」

TANGE DNA+を具現する。

「ワンラッフルズプレイスタワー1」とのバランスを考えて「ワンラッフルズプレイスタワー2」はデザインされたが、逆に「タワー2」ができたことによって「タワー1」も進化したところがあると石田は言う。「『タワー1』のロビーのデザインをリニューアルしました。先ほども言いましたが、丹下健三だったらどうするだろうと考えたとき、守るべきものは守り、手を入れるものには手を加えるはずだと思ったのです。ロビーは人の行き来が一番多い所。この空間には手を加えて現代性をプラスする方がいいと判断したのです」 過去を受け継ぎながら新しい価値をプラスする。そんな姿勢こそ丹下都市建築設計のDNAであると石野は言う。「丹下都市建築設計には、一番いい作品は何ですかと聞いたら『ネクストワン』と答える伝統があります。このプロジェクトの場合もまさにそう。新しい建物を造る場合でも、これまでの街の歴史を踏まえて次代への空間を提案します。リニューアルする場合でも、建設当時はどういう考えで造られたのかをおさらいした上で、それをどう受け継いで次代への空間へ更新していくのかを考える。過去を受け継ぐだけでなく、常にプラスして次代へ向かう。『タワー1』と『タワー2』は、TANGE DNA+という考えが具現された建物のひとつだと思っています」

ワンラッフルズプレイスタワー2